2020年7月26日の讀賣新聞で「夫の産休」を創設するという政府の方針が発表され、出産を控えた夫婦や育児中の夫婦の間で話題となっています。
具体的な制度設計についてはまだこれからとのことですが、取得できる日数やもらえるお金、育休との違いなど、気になりますよね。
そこでこの記事では、「夫の産休」について現時点で発表されている内容や従来の育休との違い、導入されたらどう変わるのか、不安に思う点などの情報をまとめました。
「夫の産休」ってどんな制度?
2020年7月の時点で発表されている内容をまとめてみました。
【目 的】 ①母親の産後うつを防ぐ ②男性の育児による休暇取得を後押しする
【開始時期】 早くて2021年から
【休業期間】 2ヶ月前後
【給 付 金】 休業を開始した時の賃金の67%以上
「夫の産休」制度の目的
記事によると、今回「夫の産休」を創設する目的は以下の2点です。
①母親の産後うつを防ぐ
②男性の育児による休暇取得を後押しする
「産後うつ」については、2018年に国立成育医療研究センターから発表されたデータによって2年の間に出産後1年未満の母親のうち92人が自ら命を絶っていることが明らかとなり、その深刻さが問題視されています。
また「男性の育休取得」については、2018年の時点で6.16%の取得率と徐々に増加してきてはいるものの、女性の82.2%と比べるとまだまだ低い水準です。
政府目標として「2020年までに 男性の育児休業取得率 13%」を掲げていますが、こちらも達成できるか危うい状況です。

このような状況が、新たに「夫の産休」制度が創設される背景と言えます。
「夫の産休」制度はいつから導入されるのか
現時点では、9月頃から休業期間などの具体的な内容を決めていき、来年1月の通常国会で改正案を提出する方針とのことなので、早くて2021年からの導入となりそうです。
「夫の産休」期間は何日か
現在の母親のみを対象とする産休制度のうち、産後休業の期間は「出産後8週間」。
「夫の産休」はこの産後休業にあたる制度とあるため、具体的な期間は未定ですが、およそ2ヶ月前後と考えられます。
「夫の産休」期間にもらえる給付金はどれくらいか
「育児休業」で支給される給付金は、休業を開始した時の賃金の67%(休業開始から6か月経過後は50%)です。
ただし所得税や社会保険料などが免除となるため、手取りの額で考えると休業前の賃金の最大約80%がもらえることになります。
これより手厚くする方針ということなので、休業前の賃金とほぼ変わらない水準の給付金がもらえる可能性も期待できます。
「夫の産休」は「育休」とどう違う?
育児休業制度とは
子が1歳(一定の場合は、最長で2歳)に達するまで(父母ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2か月に達するまでの間の1年間<パパ・ママ育休プラス>)、申出により育児休業の取得が可能
また、産後8週間以内の期間に育児休業を取得した場合は、特別な事情がなくても申出により再度の育児休業取得が可能<パパ休暇>
引用元:厚生労働省イクメンプロジェクト
ここには明記されていませんが、父親が育休を取得できる期間は「出産予定日」からです(出産日が前後したら調整可能)。
つまり、現在母親のみ適用されている「産休」の期間である出産後8週間の間、父親も従来の「育休」制度を利用して休業できるということになります。
あわせて、説明文の中に出てきた「パパ休暇」と「パパ・ママ育休プラス」という特例制度についてもご説明します。
「パパ休暇」は母親の産休期間に合わせて父親も育休を取得することを促進する制度です。
母親の産休期間内(出産後8週間)に父親が育休を取得すれば、特別な理由がなくても子が1歳に達するまでの期間中にもう1度育休を取ることができます。
「夫の産休」制度が実現した場合、2度目の育休を取るための要件である1度目の育休が産休に置き換わることになるので、この制度自体が機能しないことになりそうです。
「パパ・ママ育休プラス」は父親・母親ともに育休を取得することを推奨する制度です。
育休の時期が重なっていても、交代で取得しても、子どもが1歳2ヶ月になるまで育休期間を延長できます。
制度を利用するための要件は少し細かいので、利用を考えている方は当てはまるかよくご確認ください。
① 配偶者が子が1歳に達するまでに育児休業を取得していること
② 本人の育児休業開始予定日が、子の1歳の誕生日以前であること
③ 本人の育児休業開始予定日は、配偶者がしている育児休業の初日以降であること
※1人当たりの育休取得可能最大日数(産後休業含め1年間)は変わりません
こちらの制度に関しては、「夫の産休」制度が実現した場合にもあまり影響はなさそうです。
「夫の産休」が実現するとどう変わるか
休業を取得できる期間については、現在でも出産日から育休を取れる点や「パパ休暇」制度で2回育休が取得できる点から、導入後もほぼ変化なしと言えます。
そもそも厚生労働省の調査によると、育児休業を取得した男性の休業期間は、5日未満が56.9%、1ヶ月未満は80%以上。
ほとんどの人がごく短期間しか取得していないため、休業可能な期間が延びてもあまり関係はなさそうです。
給付金に関しては育児休業よりも増額する見通しとのことなので、産休を利用すると金銭面でのメリットがありそうです。
ただ、5日未満など短期間しか取らないのであれば、有給休暇を使って100%のお給料をもらう方が収入面では一番お得と言えます。
有給休暇では足りないくらい長い期間休業できる環境や、産休を利用することによる付加価値が追加されないと十分な効果は期待できないかもしれません。
「夫の産休」の不安な点
「夫の産休」創設に関する発表を受けて、SNSなどでもさまざまな意見が飛び交っています。その中には賛成の声もあれば、反対意見や不安に感じる意見も。
そのなかからいくつか取り上げ、「夫の産休」制度に関する不安な点を考えていきます。
「制度はあっても活用できないのではないか」
先ほど紹介したように、2018年の時点で男性の育休取得率は6.16%です。
「パパ休暇」と「パパ・ママ育休プラス」制度は共に2009年から導入されていますが、おそらく利用している人はほとんどいないのが現状でしょう。
これらの制度のように「夫の産休」も実際に機能しなければ意味がなくなってしまうので、給付金の面だけでなく男性が取得しやすい環境づくりやある程度の義務化もあわせて進めていってほしいと思います。
「逆に母親の負担になるのではないか」
残念ながら、育児休業は取得したものの家事を任せきりだったり育児に参加しなかったりと、逆に母親の負担になってしまうパターンもあるようです。
母親の産後うつを防ぐのが「夫の産休」の目的の1つなのに、負担が増えてしまうようでは意味がありませんよね。
産休取得の前に、出産前から男性側にも「父親になるための教育」を受けられる場を設けてほしいなと思います。
「産休期間が最適な休業期間なのか」
給付金の増額を検討するなど、政府としては「夫の産休」創設により母親の産後休業期間中の父親の休業を推奨する方針ということは明らかです。
でも、果たしてその時期が母親の「産後うつ」を防止するのに一番最適な期間なのでしょうか。
実は、産後1年未満に自ら命を絶った母親の数は、産後9ヶ月が最も多いのです。
産後うつというと産後すぐの時期のように思われがちですが、子供が動き出して目が離せなくなったり、母親に対する周りからの支援が少なくなってきたりする時期などにも起こりやすいと言われています。
また、産後2ヶ月位まではまだ里帰りをしていて助けがあるという母親も多いでしょう。
その一方で、現在のように感染症の流行で里帰りができない状況などでは、出産後すぐに父親の助けが必要となる場合もあります。
母親が育児がつらいと感じる時期はそれぞれの家庭環境やそのときの情勢、子供の性質などによっても様々です。また、事前に予測できるものでもありません。
産後すぐの時期の休業は一緒に子育てをスタートできるなどメリットも多いですが、この時期に取得することだけ推進されて、逆に他の時期に育休が取得しにくくなるのではという不安も感じます。
「母親の産後うつを防ぐ」という目的に関して言えば、母親自身がつらく感じているときに合わせて柔軟に父親の助けが得やすい環境が整うのが理想的だと思います。
まとめ:
不安な点や期待することなど色々と書きましたが、まだまだ現時点では公表されている情報も少なく、今後どう進んでいくかはわかりません。
ただ、育児で苦しんだ経験のある一人の母親として、今後子育てをしていく母親・父親が少しでも楽に過ごせるような環境が広がっていけばいいなと思います。